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ある被害者が,交通事故により損害を被ったとして100万円を請求しているとします。
この100万円という金額は,治療費10万円,通院交通費2万円,休業損害40万円,慰謝料30万円,弁護士費用10万円,車の修理代8万円を合計したものであって,適当に決めたものではありません。
このように,「損害」には様々な項目があり,被害者は,交通事故に遭ったことで,どの項目でいくらの損害を被り,それらを合計するといくらになるかを計算して,その金額を合計して加害者側に請求します。
損害項目は,大きく分けると,
に分けられ,以下のように,それぞれの中でさらに細かく分類されます。
治療費 | 治療にかかった費用 |
通院交通費 | 治療をするため通院した際にかかった交通費 |
休業損害 | 仕事を休んだために,得られるはずであった賃金を得られなかったという損害 |
後遺障害による逸失利益 | 後遺障害のため労働能力を喪失し,将来働いて得られるはずだった賃金を得られなくなったという損害 |
死亡による逸失利益 | 生きていれば将来働いて得られるはずだった賃金を,死亡により得られなくなったという損害 |
傷害慰謝料 | 傷害を負い入院・通院した精神的苦痛に対する慰謝料 |
後遺障害慰謝料 | 後遺障害が残った精神的苦痛に対する慰謝料 |
介護費 | 後遺障害が残り,介護が必要になった場合にかかる費用 |
自宅等の改造費 | 後遺障害が残り,バリアフリー化等の自宅の改造が必要になった場合にかかる費用 |
死亡慰謝料 | 生命を失ったことに対する慰謝料 |
葬儀費用・墓碑費用 | 死亡した被害者の葬儀や墓碑にかかる費用 |
弁護士費用 | 解決のために弁護士に依頼した場合にかかる費用 |
修理費 | 事故により壊れた車や所持品の修理にかかった費用 |
買替差額 | 事故により壊れた車や所持品を買い替えるためにかかった差額 |
代車使用料 | 事故により壊れた車を修理に出している間に使用していた代車の使用料 |
積荷の損害 | 車に積載していた商品等が事故により破損した場合の積荷代金相当額 |
休車損 | 事故により営業車が営業できなくなった場合の,車を使用して営業して得られるはずだった利益 |
上記の項目以外にも,交通事故と因果関係が認められれば,加害者又は賠償すべき者に対して請求することができます。
民事交通事故事件は,弁護士が介入せず任意保険会社の担当者との示談交渉で解決する場合と,弁護士が介入して解決する場合がありますが,弁護士が介入すると,任意保険会社の担当者から提示された示談金額より高額の損害賠償を得られることが多くあります。
その理由は,損害賠償金額を計算する際,任意保険会社と弁護士は別の基準を使っているからです。
交通事故の損害賠償金額を算定する基準は,
の3つがあります。
自賠責基準は,自賠責保険から支払われる際,自賠責保険会社が支払金額を計算するために使われる基準です。被害者に落ち度があっても基本的には減額しないなどの緩やかな支払いをする分,支払う金額も低く設定されています。
任意保険会社の基準とは,各任意保険会社が自社内で定めている保険金額算定のための基準で,公開されていないものです。
自賠責保険基準よりは高額であるものの,任意保険会社は会社の利益を上げるために支払う金額を低く抑えたいため,支払う金額が低く設定されています。
裁判所基準は,裁判所が採用している基準で,自賠責保険基準及び任意保険会社基準より高額な金額に設定されています。
この基準は,日弁連交通事故センター東京支部が発行している本に記載されている基準ですが,裁判所もこの基準を用いています。表紙が赤いため,「赤い本」と呼ばれています。
例1)後遺障害が残り,11級と等級認定を受けた場合の慰謝料
例2)交通事故により怪我をしたために仕事を休んだ場合の休業損害
任意保険会社は,支払う金額を抑えるため,自社の基準,時には最も低い金額となる自賠責基準を使って計算した損害額を示談交渉で提示します。
弁護士が介入すると,裁判所基準を使って損害額を計算して保険会社に請求するため,多くの場合,示談交渉の際に提示された金額より高い金額の支払いを受けられるのです。
交通事故により怪我をしたり精神的被害を受けたりした場合,その交通事故から生じたといえる範囲で,加害者に対して,かかった治療費や入院費等を請求することができます。
つまり,治療費や入院費等を加害者に請求する場合には,交通事故と治療・入院等の間に因果関係があることが必要です。
このことから,以下のように,被害者が立て替えて治療費を病院に支払ったのに,交通事故と治療等の間に因果関係がないと判断され,加害者に対する請求が認められない場合があります。
怪我の具合から判断して必要がない治療を行ったり,必要以上に丁寧に治療を行ったりすることをいいます。
過剰診療,濃厚診療と認められた場合は,過剰・濃厚と判断された部分については,加害者に対して治療費を請求することができないことになります。
鍼灸院や整骨院での治療は,主治医の指示があって治療した場合は,加害者に対して治療費を請求することができます。針治療等を受ける際は,予め医師の指示書や同意書を得るようにしてください。
交通事故に遭って入院し,個室や特別室に入院して差額ベッド代が発生する場合がありますが,原則として,医師が個室等に入院するよう指示した等の事情がなければ,差額ベッド代を加害者に対して請求することはできません。
医師から指示された場合や,被害者が幼かったり怪我が重篤であったりして付き添いがいなければ入通院できない場合は,被害者の入通院に付き添った際の付添費を加害者に対して請求することができます。
請求することができる付添費の目安は,以下のとおりです。
家族等が付き添った場合・・・1日につき6500円
職業付添人を頼んだ場合・・・かかった実費全額
(裁判所基準)
自賠責基準では,1日につき4100円
1日につき3300円
(裁判所基準)
自賠責基準では,1日につき2050円
これらの額はあくまで目安ですので,事情によって増額されることがあります。
また,請求関係が錯綜することを防ぐため,付添費は,付き添った人の損害ではなく,被害者本人の損害として請求することになります。
交通事故によって怪我をした場合,肉体的な苦痛を受けたり,入通院により自由を制限されたりし,また,精神的なショックも受けます。
これらの苦痛を金銭で評価して,加害者に対して傷害慰謝料として請求することができます。
傷害慰謝料がいくらになるかは事案によって異なりますが,入院期間と通院期間を基準にして,一定程度の基準があります。
例えば,
入院はせず,通院1か月の場合…28万円
入院はせず,通院3か月の場合…73万円
入院はせず,通院6か月の場合…116万円
入院1か月,通院1か月の場合…77万円
入院1か月,通院2か月の場合…98万円
入院2か月,通院2か月の場合…139万円
入院3か月,通院6か月の場合…211万円
入院6か月,通院12か月の場合…298万円
(裁判所基準)
自賠責基準では,1日につき4200円
治療開始日から治療終了日までの日数と,実際に治療に通った日数の2倍の少ない方を通院期間として,4200円をかけて計算します。
上記の基準はあくまで目安に過ぎませんので,何カ所も怪我をしていた,症状が特に重篤であったなどの具体的な事情によって,金額が増額されることがあります。
むち打ち症で自覚症状しかない場合には,これより低い金額とされる基準が適用されます(例:入院はせず,通院6か月の場合…89万円)。
上で羅列した基準金額は,その期間に一定程度通院していることが前提です。
長期間通院していても,1か月に2,3回しか通院していないなど通院頻度が低い場合は,ある計算式にあてはめて実際の通院期間より短いものとし,その短くした通院期間を基準に金額を計算します。
ただし,仕事が忙しいためにあまり通院できない場合や,家で安静にしていた方がよい場合等は,通院頻度が低くてもあまり減額しないこともあります。
怪我をして後遺障害が残った場合(傷が残った,痛みが残ったなど),後遺障害慰謝料として,傷害慰謝料とは別個に損害賠償請求することができます。
後遺障害慰謝料については,「後遺障害が残った場合の慰謝料はいくらか」のページをご覧下さい。
交通事故に遭って仕事を休んだり,出勤したけれども充分な仕事ができなかったりした場合,得ることができなかった賃金分を加害者に請求することができます。
これを,休業損害といいます。
休業損害は,交通事故に遭ったことによって減ってしまった収入を埋めるためのものですので,“交通事故に遭わなければ得られたはずの収入”といえる範囲で認められます。
休業損害を請求する場合,以下の点がポイントになります。
休業損害として請求することができる金額は,「基礎収入×休業期間」です。
例えば,1日1万円稼いでいた人が3日間仕事を休むと,
1万円×3日間=3万円
を休業損害として加害者に請求することができます。
(裁判所基準)
自賠責基準では,原則1日につき5700円
そうすると,「基礎収入」がいくらになるかが重要になります。一般的には,基礎収入は以下のようになりますが,事情によって異なるため,弁護士等に相談することをお勧めします。
給与所得者 | 原則として,事故前3か月間の平均給与(税込み額。基本給の他に,通勤手当,住宅手当,残業代も含めて)を基礎収入とします。 例外的に,事故で仕事を休んだことによりボーナスが減ってしまった場合や,事故前3か月より休業期間中の給与が昇給している場合など,事故前3か月間の平均給与を基礎収入としたのでは正確に損害を把握できない場合は,ボーナスの減額や昇給を証明できる書類を提出して損害を計算します。 なお,有給休暇を使用して休んだ場合は,減収はありませんが,不本意にも有給休暇を使用しなければならなかったという犠牲があるため,休業損害が認められます。 |
事業所得者 | 原則として,事故前年の確定申告所得額の売上額から原価や経費を差し引いた金額を基礎収入とします。所得額に波がある場合は,事故前1年分だけではなく,事故前数年分の確定申告所得額を用いて計算することもあります。 確定申告所得額から認定する以外の方法で休業損害を計算するよう求めても,よほどの証拠を提出しない限り認められません。 差し引く原価や経費は,休業前の平均値に基づいて計算します。オフィスの家賃等,休業中も支出する固定費は,事業の維持・存続のために必要やむを得ないものは損害として認められますので,経費であっても売上額から差し引きません。 なお,自営業の場合,被害者本人は働けなくても,家族が協力して事業を継続し売上を確保した結果,減収がない場合もあり,その場合は,休業損害が認められることがあります。 |
家事従事者(専業主婦など) | 賃金センサスという基準の,女子労働者の全年齢の平均賃金を基礎収入とします。 パートタイマーとして働いて収入を得ている場合は,現実の収入が上記平均賃金を超える場合は現実の収入を,平均賃金以下の場合は平均賃金を基礎収入とします。 |
失業している者 | 原則として休業損害は認められません。働いていないので,交通事故により収入が減ることはないからです。 例外的に,就職活動をしていたなど,働く意欲と能力があり,事故がなければ働いて収入を得ていた可能性が高いことを証明することができれば,休業損害が認められる場合もあります。ただし,その場合でも,基礎収入は賃金センサスの平均賃金を下回る金額とされることもあります。 |
学生 | 原則として休業損害は認められません。働いていないので,交通事故により収入が減ることはないからです。 例外的に,アルバイトをして収入を得ている場合は,休業損害が認められる場合もあります。また,高校3年生や大学4年生など,治療が長引いたことで就職が遅れた場合は,交通事故に遭わなければ就職をして賃金を得ていたといえるため,休業損害が認められます。この場合の基礎収入は,就職が内定していた場合は内定先の賃金,内定していない場合は,賃金センサスの被害者に対応する年齢・学歴の平均賃金とされます。 |
休業損害は,交通事故による怪我等のために仕事を休んだ場合や,治療のために遅刻・早退をした場合など,休業する必要があったといえなければ,認められません。
もし,怪我の程度が軽く仕事に支障がなかったにもかかわらず休んだと判断された場合は,休業損害は支払ってもらえません。
ですから,仕事を休む場合は,後日休業損害を請求する時のために,休んだ当時,どのような症状があったのか,その症状があるとなぜ仕事ができないのかを,しっかりと意識しておく必要があります。
加害者に対して休業損害を請求することができるのは,症状固定の時期までです。
症状固定とは,“これ以上治療を継続しても良くならない状態”をいいます。(詳細は「いつまで治療を続ければいいのか」をご覧下さい。)
例えば,交通事故に遭って寝たきりになり仕事に復帰できない場合,症状固定日までは「休業損害」として,症状固定日より後は「後遺障害が残らなければ得られたはずの賃金を失ったという損害」(逸失利益といいます。)として加害者に請求することになります。
仕事ができなったことにより減った収入を補うという点で休業損害と後遺障害による逸失利益は共通しますが,症状固定日を境に異なる損害項目になります。
以上のように,休業損害を請求するためには,事故前にいくら収入があり,事故によっていくら収入が減り,どれほどの期間その収入減が続いたかを,被害者が証明する必要があります。
そのため,給料明細や前年度の源泉徴収票,雇用主が発行する休業期間を記載した証明書,確定申告書等を,被害者側で集める必要があります。
交通事故で怪我をして治療を受けていたところ,まだ痛みがあるのに,医師から「これ以上治療を続けても良くなりません。」と言われることがあります。
これを「症状固定」といい,症状固定の時点で残っている症状を「後遺障害」といいます。
例えば,交通事故で腰をひねって治療を受けていたところ,医師からこれ以上治療を続けでも良くなりませんと言われたが,まだ動かすと腰が痛いという場合,この被害者は症状固定の状態にあり,腰の痛みが後遺障害です。
また,交通事故により顔に怪我を負い,ケロイドなどの跡が残った場合,この跡が後遺障害です。
後遺障害が残った場合,
を損害として請求することができます。
ここでは,①の慰謝料についてご説明します。②の逸失利益については「後遺障害が残った場合,働けなくなった分を請求することができるか」をご覧下さい。
後遺障害慰謝料は,認定された等級によって金額の基準が決められています。
もっとも,あくまで目安に過ぎませんので,被害者の年齢や職業,具体的な事情によって増額されることがあります。
1級 | 2800万円 例)両目の失明,両腕とも肘関節以上で失った など |
2級 | 2370万円 例)両目の視力が0.02以下になった など |
3級 | 1990万円 例)両手の手指を全部失った,神経の機能や精神に著しい障害が残り,生涯仕事に就けなくなった など |
4級 | 1670万円 例)両耳の聴力が全くなくなった,片腕を肘関節以上で失った など |
5級 | 1400万円 例)神経の機能や精神に著しい障害が残り,特に簡単な仕事以外には就けなくなった,片手を手首以上で失った など |
6級 | 1180万円 例)両目の視力が0.1以下になった,片手の指を全て失った など |
7級 | 1000万円 例)神経の機能や精神に障害が残り,簡単な仕事以外には就けなくなった,外貌に醜い傷が残った など |
8級 | 830万円 例)片目が失明した,片足の指を全部失った など |
9級 | 690万円 例)言語機能に障害が残った,外貌に相当程度の醜い傷が残った など |
10級 | 550万円 例)正面を見たときに物が二重に見える,歯14本以上を人工物にした など |
11級 | 420万円 例)歯10本以上を人工物にした,脊柱が変形した など |
12級 | 290万円 例)ある部分に頑固な神経症状が残った,片手の小指を失った など |
13級 | 180万円 例)片眼の視力が0.6以下になった,両眼のまぶたにまつげはげが残った など |
14級 | 110万円 例)ある部分に神経症状が残った,片眼にまぶたにまつげはげが残った など |
無等級 | 0円 |
(裁判所基準)
以上はあくまで目安にすぎませんので,被害者の年齢や職業,事故が加害者のひどい落ち度によって起きた,加害者に不誠実な態度があった等の事情によって,増額されることがあります。
最も軽度の14級にも認定されなかった場合は,原則として後遺障害慰謝料は認められませんが,例外的に,被害者の年齢や職業等によっては,後遺障害慰謝料が認められる場合もあります。
また,等級としてはそれ以上の認定を受けられない場合でも,後遺障害が顔に残った場合,加害者にひどい落ち度があった場合,何度も手術を受けなければならなかった場合など,事情によっては,認定を受けた等級の慰謝料より高額な慰謝料が認められる場合もあります。
後遺障害等級認定とは,「損害保険料率算出機構」という多数の損害保険会社が会員となって法律に基づいて設立された法人により,被害者の後遺障害が何級に該当するかの判断を受けることです。
後遺障害慰謝料の支払いを受けるためには,後遺障害等級認定を受けなければなりません。等級認定のための書類は,加害者が加入している自賠責保険会社に提出します。
しかし,自賠責保険会社は,自社で等級認定をするのではありません。
自賠責保険会社は,提出された書類を損害保険料率算定機構に送ります。そして,同機構が損害の調査(等級認定や自賠責保険から支出する金額の算出等)を行って,その結果を自賠責保険会社に通知します。自賠責保険会社は,その結果に従って,損害賠償として被害者に,又は,損害賠償を支払った加害者に保険給付として支払います。
自賠責保険会社が自社で損害の調査をしないのは,自賠責保険は,民間の保険会社が窓口となっているだけで,その性質は公的な強制保険であるため,自賠責保険会社間で支払金額等にばらつきが出ないようにするためです。
後遺障害等級認定を求めるには,
の3種類があります。
①の場合 | 加害者が被害者に対して損害賠償を支払った後,加害者が自分が加入している自賠責保険会社に対して保険金を請求すると,自賠責保険会社は,加害者に支払う保険金額を計算するために,「この被害者は何級にあたり,いくら支払うのか」を損害保険料率算出機構に打診します。そして,損害保険料率算出機構から通知された結果に従って加害者に対して保険金を給付します。 もっとも,多くの場合は,加害者が加入している任意保険会社が被害者に対して損害賠償を支払うため,加害者が自ら被害者に対して損害賠償を支払う①のケースは,あまりありません。 |
②の場合 | 加害者が損害賠償を支払ってくれない場合に,被害者が,自ら,加害者が加入している自賠責保険会社に対して損害賠償を請求する際に,損害額を算出してもらうために後遺障害の等級認定を求めます。 この請求を受けた自賠責保険会社が,損害保険料率算出機構に調査を依頼し,調査結果に従って被害者に対して損害賠償を支払うという流れは,①と同様です。 |
③の場合 | 加害者が加入している保険会社が被害者と示談交渉を行う際,本来ならば,被害者に支払われる損害賠償は,自賠責から支払われる金額とそれでは足りない分として任意保険会社から支払われる金額に分けられるはずです。 しかし,それでは示談交渉が面倒ですので,自賠責から支払われる金額と任意保険会社から支払われる金額を分けずに一緒にして示談交渉を行い,任意保険会社が一括して被害者に支払います。 その後,任意保険会社が自賠責保険会社に対して自賠責から支払われる分を請求して回収します。これを「一括払い制度」といいます。 この方法では,被害者に一括して支払った後に,任意保険会社が自賠責保険会社から自賠責の負担分を回収しようとしたときに,任意保険会社が想定していたよりも低い等級の認定しかなされず,想定より低い金額しか自賠責保険会社から支払ってもらえない恐れがあります。 そのような自体を避けるために,任意保険会社が一括払いをするときは,事前に,この被害者は何級に認定され,自賠責保険会社からはいくら支払ってもらえるのかを打診します。これを「事前認定」といいます。 |
事前認定は,任意保険会社が手続を行ってくれるので被害者は面倒な手続をしなくてよいというメリットがありますが,他方で,任意保険会社は極力被害者に支払う金額を抑えようとするため,高い等級認定がもらえるように努力しない場合があるというデメリットがあります。
被害者が自ら手続をして後遺障害等級認定を受けるためには,
などを加害者が加入している自賠責保険会社に提出することが必要です。
書類を提出すると,損害保険料率算出機構の調査事務所というところから,書面で,等級認定をするため症状を実際に見て確認したいので,面接に来てほしいとの連絡が来ることがあります。
この連絡が来た場合は,調査事務所に電話をして面接の予約をし,実際に調査事務所に行って,職員に後遺障害を見せます。
その後,書面で,何級に認定されたかという等級認定結果の通知といくら支払われるかの連絡が来ます。
なお,等級認定に納得できない場合は,異議申立て等の手続があります。
被害者が死亡した時と同じほどの精神的苦痛を被害者の家族が受けた場合,被害者の家族にも慰謝料が支払われる場合があります。
被害者が死亡した時と同じほどの精神的苦痛を受けた場合とは,被害者に重篤な後遺障害が残った場合を指します。家族の慰謝料の金額について,裁判所基準はありません。
例)被害者本人が四肢麻痺になったケース
例えば,交通事故に遭い植物状態になってしまった場合,被害者は,交通事故に遭わなければ働いて得られたはずの賃金を失ったことになります。
この“交通事故がなければ得られたはずの利益”を「逸失利益」といいます。
逸失利益も,交通事故によって生じた損害といえる範囲で,加害者に対して損害賠償請求することができます。
逸失利益は,以下の方法で計算します。
逸失利益 = 収入 × 労働能力喪失率 × 中間利息控除係数
つまり,逸失利益は,“被害者が事故前に稼いでいた額”と“後遺障害によって○%の労働能力を失った”ことを元にして,事故がなければ今後働けたはずの年数に対応した調整をして計算します。
年収400万円の50歳の男性が,労働能力喪失率27%とされた場合,
400万円 × 0.27 × 11.2741 = 1217万6028円
が,逸失利益となります。
以下,詳しくご説明します。
給与所得者 | 原則として,被害者が事故前に得ていた収入を基礎とします。 被害者が事故前に得ていた収入が賃金センサスの平均賃金額以下であった場合でも,将来,平均賃金を得られたはずであることを証明すれば,平均賃金を基礎とします。 また,被害者が事故時に概ね30歳未満の若年者の場合,事故前の収入ではなく,賃金センサスの全年齢平均賃金額または学歴別平均賃金を基礎とします。 これは,年齢が上がるにつれて賃金が高くなることが多いため,若年者の場合,現実に得ていた収入を基礎として将来得られるはずであった賃金を計算すると,本来得られたはずの収入より低い金額になってしまうという問題を解決するためです。 |
事業所得者 | 原則として,確定申告所得額を基礎とします。 被害者が事故前に得ていた収入が平均賃金以下であった場合でも,将来平均賃金を得られたはずであることを証明すれば,賃金センサスの男女別の平均賃金額を基礎とします。 |
家事従事者(専業主婦など) | 賃金センサスの女性労働者の全年齢の平均賃金額を基礎とします。 パートタイマー等,収入がある場合,実収入が賃金センサスの女性労働者の全年齢の平均賃額以上の場合は実収入,それを下回るときは同平均賃金額を基礎とします。 |
失業者 | 原則として,失業前の収入額を基礎とします。 例外的に,失業前の収入額が賃金センサスの平均賃金以下の場合には,将来,平均賃金を得ることができたはずであると証明すれば,賃金センサスの男女別平均賃金額を基礎とします。 ただし,労働意欲や労働能力がなく,働く可能性がないと認められた例外的な場合は,逸失利益が認められません。 事故の時点で働いて収入を得ていなかったとして将来に渡ってずっと収入が得られなかったはずであると考えるべきではないとの考え方から,休業損害とは異なり,逸失利益は認められます。 |
学生 | 上記のとおり,30歳未満の若年者にあたるため,賃金センサスの平均賃金額を基礎とします。 |
労働能力喪失率は,認定された後遺障害の等級によって基準があります。
1級:100% | 6級:67% | 11級:20% |
2級:100% | 7級:56% | 12級:14% |
3級:100% | 8級:45% | 13級:9% |
4級:92% | 9級:35% | 14級:5% |
5級:79% | 10級:27% |
もっとも,この基準は,労災補償をする際に使用される基準を借りてきたもので,あくまで基準にすぎません。被害者の年齢,職業,後遺障害が残った部位,後遺障害の程度,事故前と事故後の仕事の状況等,様々な事情を考慮して労働能力喪失率が何%かを判断します。
また,具体的な事情によっては,最も軽度な14級に認定されなかった場合でも,労働能力の喪失が認められることもあります。
中間利息控除係数とは,将来に渡る逸失利益を一括して現時点で受け取るため,その間金銭を運用して得られたはずの利息を差し引くための係数です。
中間利息控除係数には,ライプニッツ係数,ホフマン係数の2種類があり,どの係数を使用して計算するかは,以前は裁判所によりまちまちでした。
現在は,ほとんどの場合,ライプニッツ係数が採用されています。
中間利息控除係数は,労働能力喪失期間,つまり,その被害者が症状固定日からあと何年働けるか(現在は,67歳までとされています。)によって決められています。後遺障害は永久に残るものなので,67歳に至るまでずっと労働能力を喪失していると考えるからです。
例)
40歳だった場合 | 67歳まで27年 →中間利息控除係数は14.6430 |
55歳だった場合 | 67歳まで12年 →中間利息控除係数は8.8633 |
ただし,被害者が18歳未満の場合,働いて賃金を得たはずであるのは18歳からなので,修正が必要です。
具体的には,症状固定時から67歳までの係数から,症状固定時から18歳になるまでの係数をひいた係数を,中間利息控除係数とします。
後遺障害は,症状固定の時点で生涯残ると認められるものですので,働くことができる上限の年齢(67歳)まで,ずっと労働能力を喪失していると考えます。
したがって,労働能力喪失期間は,原則として,症状固定時から67歳までです。
もっとも,以下のような例外もあります。
症状固定時に67歳を超えていた場合 | ・・・平均余命の半分が労働能力喪失期間です |
後遺障害がむち打ち症の場合 | ・・・労働能力喪失期間は5年や10年に限定されます |
医師の指示がある場合や,症状固定後に四肢麻痺などの重度の後遺障害が残り介護が必要になった場合,加害者に対して,将来の介護費用を損害として請求することができます。
介護費用を一括で請求する場合,金額は以下のように計算します。
1日の介護費 × 365日 × 介護が必要な期間 × 中間利息控除係数
介護士等の職業付添人を雇った場合 | ・・・実費全額 |
家族等の近親者が介護している場合 | ・・・1日につき8000円 |
(裁判所基準)
ただし,あくまで基準にすぎませんので,入浴時のみ介護が必要な場合など,常時介護が必要でない場合は,具体的な介護の状況に応じて減額されます。
被害者が死亡するまでです。
被害者があと何年生きるかは分からないため,厚生労働省が発表している平均余命を基準にします。
例)
被害者が30歳男性の場合 | ・・・平均余命50.41年 |
被害者が30歳女性の場合 | ・・・平均余命56.92年 |
被害者が65歳女性の場合 | ・・・平均余命18.86年 |
被害者が65歳女性の場合 | ・・・平均余命23.89年 |
将来に渡る損害賠償金を一括して現時点で受け取る場合,その間金銭を運用して得られたはずの利息を差し引くための係数です。
中間利息控除係数は,平均余命までの年数に対応したライプニッツ係数というものがありますので,それに機械的にあてはめて計算します。
将来に渡って必要となる介護費用を,一括ではなく定期的に支払うよう請求することもできます。
これを,「定期金賠償」といいます。
事故後数年経ってから後遺障害が重篤になり,より高い介護費用が必要となった場合,「月々○○万円支払え」という判決の変更を求める訴えをすることができます。
交通事故の被害者が死亡してしまった場合,命を失ったこと自体への慰謝料を,被害者の相続人が加害者に対して請求することができます。
被害者が死亡した場合の死亡慰謝料の目安は以下のとおりです。
一家の支柱 | 2800万円 |
母親・配偶者 | 2400万円 |
その他(独身者・子など) | 2000万円~2200万円 |
(裁判所基準)
※自賠責基準では,
本人の慰謝料 | 350万円 |
遺族1人 | 550万円 |
遺族2人 | 650万円 |
遺族3人以上 | 750万円で, |
遺族に被扶養者がいる場合は,上限金額に200万円を加算
この金額は,死亡した本人の慰謝料と遺族の慰謝料を含めた金額です。
一家の支柱が死亡した場合の慰謝料が他の者と比べて高額となっていますが,命の重さに差があるわけではありません。家族を養っている一家の支柱が死亡した場合,遺族は悲しみと共に経済的打撃も受けます。
そのため,残された遺族の扶養という意味や,扶養しなければならない家族を残して命を奪われた被害者本人の無念を汲む意味を込めて,死亡慰謝料が高く設定されているのです。
上記の基準はあくまで目安にすぎないので,具体的な事情によって増額されることがあります。
例)加害者が,無免許,居眠り,酒酔い運転等をしていた場合
被害者が扶養すべき人数が多かった場合
交通事故に遭った被害者が死亡してしまった場合,被害者は,交通事故に遭わなければ将来働いて得られたはずの賃金を失ったことになります。
この“交通事故がなければ得られたはずの利益”を「逸失利益」といいます。
逸失利益も,交通事故によって生じた損害といえる範囲で,加害者に対して損害賠償請求することができます。
死亡逸失利益は,以下の方法で計算します。
死亡逸失利益=基礎収入額 ×(1-生活費控除率)× 中間利息控除係数
以下,詳しくご説明します。
給与所得者 | 原則として,被害者が事故前に得ていた収入を基礎とします。 被害者が事故前に得ていた収入が賃金センサスの平均賃金額以下であった場合でも,将来,平均賃金を得られたはずであることを証明すれば,平均賃金を基礎とします。 被害者が事故時に概ね30歳未満の若年者の場合,事故前の収入ではなく,賃金センサスの全年齢平均賃金額を基礎とします。 これは,年齢が上がるにつれて賃金が高くなることが多いため,若年者の場合,現実に得ていた収入を基礎として将来得られるはずであった賃金を計算すると,本来得られたはずの収入より低い金額になってしまうという問題を解決するためです。 |
事業所得者 | 原則として,確定申告所得額を基礎とします。 自営業など,死亡者本人だけでなく家族が一緒に働くことによってその所得を得ていた場合,基礎収入額は,所得に対して死亡者本人がどれほど貢献していたかという割合によって算定します。 現実の収入が平均賃金以下であっても,平均賃金を得られることを証明することができれば,賃金センサスの男女別平均賃金額を基礎収入額とする場合もあります。 |
家事従事者(専業主婦など) | 賃金センサスの女性労働者の全年齢の平均賃金額を基礎収入額とします。 パートタイマー等,収入がある場合,実収入が賃金センサスの女性労働者の全年齢の平均賃額以上の場合は実収入を,それを下回るときは同平均賃金額を基礎収入額とします。 |
失業者 | 原則として,失業前の収入額を基礎とします。 例外的に,失業前の収入額が賃金センサスの平均賃金以下の場合には,将来,平均賃金を得ることができたはずであると証明すれば,賃金センサスの男女別平均賃金額を基礎とします。 ただし,労働意欲や労働能力がなく,働く可能性がないと認められた場合は,死亡逸失利益が認められません。 なお,休業損害と異なり死亡逸失利益が認められるのは,事故の時点で働いて収入を得ていなかったからといって,将来に渡ってずっと収入が得られなかったはずであると考えるべきではないからです。 |
学生 | 生涯を通じて平均賃金程度の収入を得られると証明することができた場合,全年齢平均賃金または学歴別平均賃金を基礎収入額とします。 |
人は,生きている限り生活費がかかります。交通事故で被害者が死亡した場合,被害者が将来働いて得られるはずであった賃金が得られなくなった一方で,被害者の生活が掛からなくなったという利益があります。
そこで,被害者が生きていれば掛かったはずの生活費が死亡したことにより掛からなくなったのだから,その分を差し引いて逸失利益を計算することが必要になります。
このように,損害を被った原因と同じ原因によって利益を受けた際に,利益の額を損害額から差し引くことを「損益相殺」といいます。
生活費控除率は,以下のとおりです。
死亡者が一家の支柱で,被扶養家族が1人の場合 | ・・・40% |
死亡者が一家の支柱で,被扶養家族が2人の場合 | ・・・30% |
死亡者が女子(主婦,独身女性,幼児等)の場合 | ・・・30% |
被害者が男子(独身,幼児等)の場合 | ・・・50% |
(裁判所基準)
中間利息控除係数とは,将来に渡る逸失利益を一括して現時点で受け取るため,その間金銭を運用して得られたはずの利息を差し引くための係数です。
被害者が死亡した日からあと何年働けるか(現在は,原則として67歳までとされています。)によって決められています。
被害者が67歳を超える場合,平均余命の半分の年数に対応した中間利息控除係数を使用します。
被害者が67歳以下であって,67歳までの年数が平均余命の半分の年数より短い場合は,平均余命の半分の年数に対応した中間利息控除係数を使用します。
事故前に年収500万円だった50歳の男性で,妻1人,子1人の家族だった場合,死亡逸失利益は,
500万円 ×(1-0.4)× 11.2741* =3382万2300円
*67歳まで17年間就労可能とした中間利息控除係数
となります。
交通事故の被害者が死亡した場合,葬儀費用も交通事故によって生じた損害であるとして,加害者に対して請求することができます。
誰でもいつかは亡くなり葬儀を行うため,支出が早まっただけで被害者に損害はないのではないかという理論的な問題はありますが,実務では,請求を認めています。
原則として150万円が限度とされています。
(裁判所基準)
ただし,葬儀にかかった費用が150万円より少ない場合は,実際にかかった費用しか認められません。
例えば,500万円をかけて過大に豪華な葬儀をあげ,加害者に対して500万円を請求したとしても,認められるのは150万円だけです。
もっとも,150万円という金額も目安に過ぎませんので,具体的な事情によって150万円より高額の葬儀費用が認められる場合もあります。
例えば,悲惨な事故で社会の注目を集めたこと,被害者が高校生であることなどから葬儀が大規模にならざるを得なかったとして,150万円を超える葬儀費用実費全額の請求を認めた裁判例があります。
交通事故の損害賠償請求にかかった弁護士費用は,加害者に請求することができます。
なぜなら,弁護士費用も,交通事故に遭わなければ支払う必要がなかった費用だからです。
一般的には,弁護士費用は,認められた損害賠償額の10%程度とされています。
最近では,被害者自身の人身保険等に弁護士費用特約が付されている場合があります。
弁護士費用特約を利用すれば,保険会社によって特約の内容は異なりますが,弁護士との法律相談料や調停・訴訟等をするのにかかった費用を保険でまかなうことができます。
交通事故の損害賠償請求は,死亡事故や怪我の程度が重篤な事故になると,請求額が1億円を超えるケースから,怪我の程度が軽く請求額が十数万円に収まるケースまで,様々です。
請求額が低い場合は,加害者から支払われた損害賠償金のほとんどを弁護士費用として支払ってしまい,被害者自身の手元にはほとんどお金が残らず,時間と労力をかけただけ無駄だったということにもなりかねません。
弁護士費用特約が付いていれば,弁護士費用は保険金で支払い,加害者から支払われた損害賠償金を全て被害者の手元に残すことができる場合もあります。
ご自身の保険に弁護士費用特約が付いているか確認し,付いていた場合は,是非とも活用してください。
交通事故で,通勤に使っているマイカーや営業車が破損することがあります。
その場合,車の修理期間中に代車やレンタカーを借りる費用も,加害者に対して請求することができます。
ただし,代車使用料を請求する際には,以下の注意点があります。
代車使用料は,代車を使う必要がある場合にしか認められません。
日曜日に家族で出掛ける時だけに車を使用していた場合,破損した車を通勤に使っていたが電車でも通勤できるような場合,他にも車を所有しておりその車で通勤できる場合などは,代車使用料を請求することはできません。
代車使用料を請求する場合,いくら請求することができるかも問題となります。
高級外車に乗っている人は,同じクラスの高級外車を代車とすることが多いようです。ベンツの代車はベンツか,ということですね。
これについては,同クラスの高級外車を代車とする必要性があるような場合でなければ,1日1万5000円から2万円の使用料となる国産高級車で充分だというのが実務です。
代車の使用が認められ,代車使用料を加害者に請求することができる場合でも,代車を使用する必要がないと判断された期間の代車使用料は認められません。
車を修理に出している場合,原則として1週間から2週間が代車の使用を認められる期間とされていますが,海外から部品を取り寄せる必要があるなどの理由がある場合は,1週間から2週間より長期間の代車使用も認められます。
全損により車を買い替える場合は,買い替えに必要な期間のみ代車使用を認められます。
交通事故に遭って怪我を負わされた被害者にも一時停止見落としなどの落ち度がある場合があります。
この場合,被害者に生じた損害の全額を加害者に負担させるのは公平ではありません。
そこで,被害者にも落ち度(過失)がある場合,被害者に生じた損害を公平に分担するため,損害賠償額を減額することがあります。
これを,過失相殺といいます。
被害者が5000万円の損害賠償を請求している事件で,被害者に3割の過失があったとします。
その場合,裁判所は,加害者に対して
5000万円 ×(10割 ― 3割)= 3500万円
の損害賠償を支払えと命じます。
過失相殺される“過失”には,
①事故の原因となった過失 | 例)自転車で道路上に飛び出したら車に轢かれた ウィンカーを出さずに車線変更をしたら後方から追突された |
②損害の発生や拡大の原因となった過失 | 例)被害者がシートベルトをしていなかったのでフロントガラスに激突した 被害者の持病のために治療が長引いた 被害者に精神疾患があり,気の落ち込みから症状が悪化した |
の2パターンがあります。
交通事故事件は数が大変多く,全国の裁判所であまりに異なる判断はできないことから,ここでも一定の基準があります。
例)
ウィンカーを出して車線変更をしたところ,後ろから直進車に追突された | 車線変更をした車:後続直進車 70:30 |
上の場合で,ウィンカーを出さなかった場合 | 車線変更をした車:後続直進車 90:10 |
ウィンカーを出して車線変更をしたところ,後ろから15㎞以上のスピード違反をした直進車に追突された | 車線変更をした車:後続直進車 60:40 |
青信号の横断歩道を渡る歩行者を,赤信号無視の直進車が轢いた場合 | 歩行者:直進車 0:100 |
赤信号の横断歩道を渡る歩行者を,青信号の直進車が轢いた場合 | 歩行者:直進車 70:30 |
過失は,自動車 > オートバイ > 自転車 > 歩行者の順に認定が甘くなります。
もっとも,上記の基準もあくまで一つの目安にすぎないため,加害者も被害者も,より自己に有利になる事情を探して主張していくことになります。
被害者本人の過失だけではなく,被害者の家族のように,身分上,生活上,被害者と一体といえる者に過失があった場合,被害者「側」の過失として過失相殺されることがあります。
例えば,3歳の幼児が突然車道に飛び出して車に轢かれた場合,幼児から目を離していた親の過失が,被害者側の過失として過失相殺されます。
他方,近所の子供を一時的に預かっていた主婦が目を離した隙に,預かっていた子供が突然車道に飛び出して車に轢かれた場合,その主婦は,身分上,生活上被害者と一体といえる者にはあたらないため,子供から目を離した主婦の過失は,被害者側の過失として過失相殺されません。
上記のように,原則として,被害者の過失に応じて損害賠償を減額されます。
しかし,自賠責保険は,以下のとおり,被害者の過失が7割以上の重大な過失でない限り過失相殺をせず,また,低い過失割合によって過失相殺を行います。
被害者の過失割合 | 減額割合 | |
後遺障害または死亡に係るもの | 傷害に係るもの | |
7割未満 | 減額なし | 減額なし |
7割以上8割未満 | 2割減額 | 2割減額 |
8割以上9割未満 | 3割減額 | |
9割以上10割未満 | 5割減額 |
これは,自賠責は,被害者・加害者間での損害の公平な分担という過失相殺の理念より被害者保護の理念を優先させ,被害者保護を厚くしているからです。
例えば,ウィンカーを出して車線変更をしたところ,後ろから15㎞以上のスピード違反をした直進車に追突された場合,車線変更をした車:後続直進車=60:40ですから,追突された車は,6割の過失がありますが,被害額全額を自賠責保険から支払ってもらうことができます。